デカい容器に黒地に白で「俺のプリン」と無骨なフォントでプリントし、 尚且つ時代がかったポージングの男のシルエットを小粋に添えただけのただのプリンだ。 それでも気になってしまう。
さりとて、ウカツにそいつを手に取ってしまって 「ほう、やはり手に取りましたか。普段プリンを購入しようとは思わないオジサンに購入意欲をソソらせようと しているメーカーの思惑にまんまと踊らされてるね」 と肉まんの補充をしながらも横目で俺の事を見ているかもしれない店員さんにほくそ笑まれるのもシャクな ので 右半身は「俺のプリン」にピリピリするぐらい神経を尖らせながらも、左半身で何気なさを装いCraft Boss の棚に直行しているが、何だろう?気になっているんだけど、気の無い素振りをするもどかしい気持ち そう言えば昔こんな気持ちになった事があった。 この懐かしくもほろ苦い気持ち そうか・・・この気持ち・・・恋だったんだね。
あれは確か中学2年生の頃 同じクラスの安部奈津子さん 安部さんは吹奏楽部でフルートを吹いている目のパッチリした女の子 ある日授業中にクラスメイトの一人が気分が悪くなり、保健委員の俺と安部さんが保健室まで連れて行った その帰り、誰もいない長い廊下を二人で話しながら歩いた。 飼っている犬の話、よく聞いている音楽、好きなテレビ。 教室では授業をしているのでヒソヒソ声で話しながら歩く。
そしてそんな非日常な状況を二人でクスクス笑った。 ちなみに奈津子と言う名前は、安部さんのお父さんの馴染みの芸者さんからとったもので、それがお母さん にバレて一波乱あったらしいが今はどうでもいい話だ。
それ以降安部さんの横を通るたびにこんな気持ちになったけど、僕は何も言えないまま卒業を迎え、その気 持ちは行き場を失ってしまった まだ初心な少年だったと苦笑いしてみても、行き場を失ってしまった想いは後悔と名前を変え、今の僕の心 の奥深くに燻っている いいのか?俺 あの頃はまだ子供だったし、今でも心は少年だもん!と言い訳してみても後悔が残るだけだ。
時に恥をかく勇気を持ってでも素直な気持ちを優先すべき時があるのではないか? そう思うとすぐにでも「俺のプリン」に駆け寄りそうになったが、もう一人の俺がささやく。 「素直な気持ちは大事だ。しかしこの歳で安易に火遊びして火傷でもしたらどうするつもりだ?その想いを グッと笑顔の下に隠せてこそ大人なのではないのかな」 困ったぞ。
確かにそれも一理ある。 「四十にして迷わず」と孔子は言ったが、五十を過ぎてプリン一つにこれ程まで迷うなんて孔子に合わす顔 がない。 ここはハヤる気持ちを抑え、もう一度「俺のプリン」に向きあうかどうか、じっくり観察してみようではないか。 どれどれ、大きさとしては申し分ない。 形としても持ちやすいフォルムにする為に底を深くしていて、食べ終わった後は一輪挿しにでもしてレースのカーテンがついた窓辺にそっと添えると、一服の絵画のようになる事間違いない。 味と香りは・・・さすがにこれは購入してみないと分からないがプリンはプリンだろうとタカをくくっていると何 か違和感を覚えた なんだろう・・・そうか・・・カラメルが見えないではないか! いやいた、これは看過出来ない問題ですよ。
確かに底が深い容器では、カラメルに辿り着く頃にはほとんどのプリンが食べ終わっている状況になるだろ うが、だからと言って初めからカラメルを外してしまっては本末転倒。 魚の帽子を被っていないサカナ君がただの魚好きな人になるのと同様に、カラメルあってこそのプリン。 もしカラメルが無ければ甘口の玉子豆腐と区別が付かなくて途方に暮れる人が必ず出てくるではないか。
それりゃあ誰にだって欠点はあるさ。 お金がなけりゃあ知恵を使えばいいし、知恵が無ければ仲間を作ればいい。 容姿的に残念な人は人格を磨いていけばいいし、パンがなけりゃあケーキを食べればいいじゃない。 そうやって何かで補う事が出来るならいいが、補う事の出来ない事だってある。 例えばだ、そこら辺のアイドルや女優が霞んでしまう程の美女がいたとしよう。 性格も穏やかで、いつも「フフフ」と笑っている。
でもその美女の声が出川哲郎ならどうする? あの低いくせに妙に張りのある声で「ウフッ」なんて耳元で言われて精神の均衡を保てる自信が君にはあ ると? まあ、そのぐらい譲れない物があるって事だ。 いや待てよ?それなら顔が出川哲郎で声が有村架純なら譲れるのか? もし何某かの理由でどちらかを取らなければならない状況になったとしたら俺はどちらかを選べるのか?
さて困ったぞ、またしても問題が発生してしまった。 脳の栄養を補うために「俺のプリン」でも食べて、今晩じっくり考える事にしよう。
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